かたるしす

 僕は本を読んでいた。分厚く不気味な本だ。図書室で偶然見つけたもので、その魅力に惹かれすぐさま借りた。タイトルには、『呪い』とだけ書かれていた。
 本の内容は、とてもこわい物語だった。こわい話が好きな僕は、身の毛のよだつその内容に、恐怖と好奇と感動を覚えた。
 その本の最後には、「この本の中をだれかに見せてはいけません。だれかに物語を話してもいけません。口にしたものは呪われます。」と書かれていた。
 その言葉には妙に説得力があって、僕は信じるよりなかったが、一週間ほど経ったある晩。誰かに話したいという欲求がついに限界に来て、明日学校で話そうと決めた。
 僕は一冊のノートに、本のあらすじを書き写して友人に見せた。口にせずに伝えるにはこれしかないと思ったのだ。
 友人は最初は不信がっていたが、その奇妙な物語に次第に興味を持ち始め、終わる頃には「すごい!
」などと手を叩いて笑っていた。彼もオカルトが好きなのだ。
 次の日、友人は学校を休んだ。もしかしたら彼もあらすじをノートに書き写しているのかもしれないと思った。本の最後のページのことを思い出すのは2日後のことである。
 クラスで休んだのが5人。隣のクラスでも2人いた。そして彼は思い当たった。この物語の注意点を友人に伝えるのを忘れたことを。
 それから学級が崩壊するまでは3日とかからなかった。噂はすぐに広まる。気づけば学校に来ているのは僕と、クラスとほとんど交流のない男子1名の合計2人。
 正直僕は、呪いが広まっていくのを楽しんでいた。物語の悪役、悲劇の黒幕。そんな存在になれた気がしていたからだ。
 だからその日、僕は彼に話しかけノートを見せた。彼は最初驚いたような顔をしていたが、うなずき応じた。しかし彼は終始顔をしかめていた。
 なぜかと聞くと、眼鏡をわすれて文字が見えないという。仕方がないので僕はそのノートを音読した。彼が笑顔になったので、彼もオカルトが好きなのかな、あるいは、いつも小説を読んでいるからこういうのもイケる口なのかもしれない、と僕は思った。
 最後のオチを言い終わった瞬間、僕は突然口が開かなくなった。喋ることもできず、息も苦しい。意識が遠のいて行くのを感じる。彼が助ける素振りを見せないので、ノートに「助けて」とだけ書いて見せた。彼はその文字を見るとうなずいて、「わかった」と言った。しかし何をすることもなかった。
 僕は倒れた。意識が飛ぶ直前、彼は僕のことを見ていた。
 心なしか、笑顔だった。